【ネタバレ有り】midsommar

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静止画で見てもめっちゃプロレスでしょこれ・・・・・・・・

 

 

ミッドサマーを見たらずっとミッドサマーについてだらだら考えることになってしまってそしたらディレクターズカット版が上映しはじめて結局映画体験について考えることになったというはなし

 

 

好きな映画はパラジャーノフざくろの色』・ファスベンダー『ケレル』『マリアブラウンの結婚』・ムンジウ『4ヶ月、3週と2日』りーぬなですよろしくおねがいします(轟ちゃんみたくなった)

 

 

まず最初にミッドサマー観た直後の私が書いたメモをご覧ください。

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パラサイトの時はネタバレも割と読んでから本編観たんですけど、ミッドサマーは確か日本で公開が決まった時に先に観ていた方の考察をちらっと見ただけで、お話の筋も忘れかけていた感じでした。なのでほぼ何も知らない状態で入ったのですが、それでもめちゃめちゃ面白かったな~という感じ。ちゃんとわかる。ルーン文字が直接お話にかかわってくることはあまりない感じもしたし。あくまで装飾。

 

 

私あまりグロ映画とかホラーとか見ないんですけど(7・8年前出会い系で知り会った既婚者と渋谷のその日閉館する映画館でやってた2本のうち、「こっちの方が怖くなさそう」と選んでみた映画がめちゃくちゃグロかった以来観てない)、さすがに死刑囚の死体とか持ってこれるわけないからグロシーン全部嘘みたいなの分かり切ってるじゃないですか?だからミッドサマーのマジグロさとか、そこまで私は響かなかったんですよね。で、その死体や死にかけの人の扱われ方が結構雑というか、最初、72歳を迎えて生涯を「終える」男女がアッテストゥパンした後に焼かれるシーン?で横たわった死体を写すシーンがあるけど、その足とかめちゃめちゃおもちゃっぽくて、おもちゃっぽいといえばマークがスキンザフールで道化師にさせられているときの死体の軽さだったり、生贄の館のシーンで外部から来た死体はみんな雑に置かれる辺り、何もリアリティーがなくてそこが多分私が「変態B級映画」だと思った所以だった。ので、入る前に一緒に来た友達が「なんか途中で席外したりぶっ倒れたりする人がいるらしいよ」という話を聞いて、マジかとなった。そこまで?みたいな。

 

 


で、どうして席を外したり倒れたりする人がいるんだろうか?と考えたときに、映画に入れ込める人だからだ、と思ったのですよね。そこが多分自分とちょっと映画の見方が違う部分で、私は映画はフィクションだと思っているし、さっき書いた死体やグロさのリアリティーの話とかも、ああいう目線で見てしまう。ダニーがあそこまで精神が不安定なのも、病気の前に資質と若さのせいだと切り捨ててしまうから、入り込むことがないのかな~と。あと私の映画の見方は画像的だからというのも大きい。「あ~こういうモチーフの組み合わせのセンスは素敵だな」とか「この構図と人間のポージングはいいな」とか、写真的にぶった切って見てるから余計にストーリーとして入れ込んだりすることがなかったのだなと思った。勿論、映画は連続的なものなので、私のような見方は正しい処理の仕方ではないと思う。
あとは「自分が主人公だったら」という目線の考察も新鮮だった。と同時に私は「この映画は何を伝えたいのか」ということを知りたい、アリアスターが何を言いたくてミッドサマーを作ったのかな?ということが知りたいということに気づいた。

 

 


私が一番疑問に感じたのは、最後生贄の小屋が焼かれるシーンで、ホルガの人たちは狂乱しているのにダニーだけ最後笑うということだった。初見はどういうことだよ!!??!?!?!ってなったんですけど、監督のインタビューを読むと、ああなるほどねと腑に落ちた。
まずそもそもアリアスターは、きっちりと順序だてられて1+2=3というような、完全な筋書きを必要としていないっぽい。というのはインタビューの中で

「ヒーローもののような一定の映画は、何がなんでも想定できることしか起こらない。彼らが何者かも明白ですよね。観客も、何を求めて来ているかわかってるから、何かしらの安心感もある。ただ、僕はそういう映画って、何も残らないとも感じていて。期待していた通りのものを手に入れると、すーっといつもの生活に戻れちゃうので、特に振り返って考えることもなくなってしまう。僕は、人に取り憑いてなかなか離れないような、簡単には解決できない映画をつくるというアイディアが好きなんです。」

と言っていて、確かにそれを言われるとダニーが最後あの状況で、ホルガの「家族」とは別の感情を表した=笑ったことも腑に落ちる。腑に落ちるというか、そういう結末があってもいいよな。となる。

 

 

加えてこの映画のジャンルが何なんですか?と聞かれたときも、

「僕自身にとって、ジャンルは重要じゃないですね。(中略)そもそも『ミッドサマー』のジャンルは何かと聞かれても、僕もわからないですから。ホラー映画とも言えるし、失恋映画とも言えるし、おとぎ話とも言えるし、ブラック・コメディとも言えるし、居心地の悪い映画とも言えるし、成長物語とも言える。いろんな解釈ができるのにひとつのラベルをつけることは、人々から映画への興味を失わせる気もするので、偏見なしにそれぞれの言葉で関わってもらえたほうがうれしいです。」

と述べていて、ここまで読むとアリアスター自身が作品=自分の生を単純にラベリングされたくないのだと考えられるな~と思ったのでした。だから作品の中では辻褄が合わない部分があって、でもそれは正しくないとか正しいとかの振り分けをすること自体がナンセンスなんだなと思った。まあ別のインタビューでは「ダークコメディという表現がしっくりくる作品です」とか言ってるんですけどね…。

 

別のインタビューだと
「エンディングは常に、セラピー効果をもたらすように設計してはいます。ただ、治療的なカタルシスがあると同じくらい部屋が引き裂かれるように破壊的でもあってほしいんです。いい気分なのに、なぜかしっくりこないような。体内が清められたはずなのに、何か新しい病気が潜んでる……みたいな気持ちになってもらえたらうれしいですよね。」

といってて、見ている人に問いかけとしての違和感を残したいのね、となりました。

 


ダニーがあのように不安を抱えてクリスチャンに依存してしまう=「恋人」という関係であるはずなのに、本当の意味での「孤独」ではないはずなのにそれらではなかったときよりもずっと孤独に感じてしまうの、アリアスターはネット社会に消極的で「ネットの登場によって”つながっているのに孤独を感じる”」と述べていて、それは現代の病なのかもしれない。そしてダニーのように不安定な人は堂々巡りしてしまうんだろうね。暇だし大学院生で()
最終的に生贄の家で「お焚き上げ」されてしまうダニー以外の外部の人たち―クリスチャン・マーク・ジョシュ・サイモン・コニー―はそういった現代社会の膿みたいなメタファーだったのかもしれない。実際アリアスターは人が犠牲になる隠喩は「共依存や失敗した恋愛・常に犠牲を必要とする人間関係を表現」していると発言しているし。

 


物語は終始ダニーの目線で展開されていくし、今思うと最初のホルガへ向かう車のシーンで天地逆さになりながら、飛行機が離陸するときの重低音のような効果音を聴きながら、画面がゆっくりと旋回していく気持ち悪さ(あそこはちょっときつかった。うわ~画面と効果音だけで3D上映じゃなくても重力とか感じられるのかと思った)は、その後マッシュルーム・ティー睡眠薬やメイクイーン決定戦の前の汁を飲んで幻覚?を見ていくダニーの身体と観客のそれを一致させる効果だったのかもしれない。物語では「家族」であるがゆえに見境なく人の感情に踏み込んで同調していくシーンがあるけれども、いうなればそこで見ている私も、ダニーの感情と同調させられるために、つまりダニーになるためのスイッチとしてあの視覚効果や効果音があったのであって、だから映画を見たときに「癒された」とか「セラピーだった」という言葉が出てくるのは、案外うなずいてしまうなと思った。「当事者の感情の大きさ」をアリアスターは映画で表現したいので、だからあの作品も、ヘレディタリーも、あえてグロい部分を見せることで当事者にさせられる。物語の俎上に観客を上げて、物語が進むにつれて生じる感覚が、自分のものなのか、主人公のものなのか、もはや定型することすら野暮な境地に持っていけたとき、アリアスターがやりたかったことが成立した。ということになるのだろうと思った。

 

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と上までが通常版を観た感想でした。
このエントリー放置しておいてよかったわ。これ書いた直後にディレクターズカット版上映が決まり、昨日見てきました。

 

率直な感想:何故通常版を作ったのか

 

メモ

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なんか映画というシステムがもうアリアスターがやりたいことをやるための装置というか、要は普通映画って、通常版だけで終わるの?知らん私はそう思っていて、というか同じ作品を通常版・ディレクターズカット版で同期間に1回ずつ観るという体験をしたのが初めてだったので、なんか最初通常版を観せて、その次にディレクターズカット版を観せて、通常版で写されなかったシーンを逆に際立たせるみたいなそういう、あらかじめ決められていた装置というか、通常版もディレクターズカット版も観て、初めてミッドサマーという作品が、アリアスターが何を言いたかったのかわかるみたいな、そういう感じに思えた。

 


友達とよく話すんですけど現場、一回じゃ内容を把握しきれないので一現場2回は見たいですよねという話をするんですが、マジでミッドサマーはそれとなりました。という事はミッドサマーは「作品」ではなくて「体験」なのかもしれない、と思った。
あとはやっぱり衝撃が強すぎる映画なので、一回見るとシナリオが頭に入っているために人物の機微に敏感になったりする。

 


これはお話の基盤なので通常版・ディレクターズカット版関係ないんですけど、最初ダニーがいるNYが冬で、midsommarのタイトルが吹雪の中で浮かび上がってくるところが、改めて見ると非常に強い意味を持っていたのだなと思いました。要はダニーが暮らす=家族が全員死んで、クリスチャンとも不均衡な関係を続けている―が冬=ケで、物語の舞台であり、彼女がカタルシスを得る場所であるホルガは夏至だし、白夜というハレの世界という対比、それが日常と非日常というコントラストとして浮かび上がってくるのか~なるほどですね~となりました。

 


ディレクターズカット版を見進めていく中で、「クリスチャンは本当にクソなのか?」という軸を持ちながら観察していたのだけれど、というのは通常版であまりにもクリスチャンが突飛で無責任な言動をするので、クズオブクズ認定してたんですけど、彼は彼なりに筋道をもってクソな言葉を放っていたのだな、と分かったと同時に、でも結局それはすべて自分を「悪者」にしたくないというところから出てくるものなので、やっぱりクズだと思いました。

 


メモにも書いたけど、水の儀式(水の儀式って言い方ではないと思うけど)の後にダニーとクリスチャンが口論するシーンで、「あなたは逃げるし、私は見ないふりをしていた」的なセリフをダニーが放つところがあって、何故それを通常版にもりこまなかったんかい!となった。あれが一番のコアじゃん。アリアスターが一番失恋で思ったことでしょ。だから余計にディレクターズカット版ありきの通常版だったのかな~とか思っちゃうのよね~

 

 


とにもかくにも、月並みですが今まで見てきた映画で最も素晴らしい映画であったことは間違いないです。それはストーリーがどう、という事ではなくて、映画を体験として全身で享受した作品は、私にとって初めてだったからもしれません。超える映画出てこないと思う。
お勧めして恨まれたらいやなのでお勧めはしないけど、映画を批評的に観れる人は面白いと思います。
個人的にクリスチャンが手作りエロエロセット食った後、というかダニーがメイクイーンになった後にヤバくなるんですけど(語彙力)、その時に隣の長老がクリスチャンに向かって手をパチンって叩くシーンで、クリスチャンが「なんでそんな真似をするんですか?」って聞くシーン結局謎のままだった・・・・解説できる人教えてください。

 

ヘレディタリー観なくてはね~。
 

 

 

 

 

ミッドサマーについて考えたくて色々読んだ記事です。面白いのも面白くないのも読んだものは全部下に張り付けたので、お茶のお供にどうぞ。

note.com

 

note.com

☝考察、解説ᛞᚱ ノーマルな解釈

 

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☝当人の体調によってさらに最低な映画になってしまった人の話

 

 

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☝上よりかはもっと根源的にホルガの「動物性」に耐えられなくなった精神主義っぽい?知識人ならでは?の?感想で面白かった。


◎ミッドサマー/アリ・アスター監督の手のひらで踊ろう! 

https://note.com/embed/notes/ned6c9565ead5

西洋美術史アトリビュートなどの観点から紐解いてる考察←多分一番おもしろい解説というか「案内」だった

 

 

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☝薬の添付文書みたいなもの。用法容量を守って正しくお使いください的なやつ

 

◎【映画】『ミッドサマー』感想 〈オカルト〉の宝石箱や ※ネタバレ無し

note.com

 

◎『ミッドサマー』/ようこそ、ここは「メンヘラ」のいない村

note.com

 

『ミッドサマー』と『ヘレディタリー』の深い繋がり―「絶望の叫び」と「疎ましさ」からアリ・アスター作品を読み解く

www.cinemacafe.net

 

ミッドサマー=姥捨山

nightswatch1223.hatenablog.com


ミッドサマー感想メモ

nightswatch1223.hatenablog.com

 

◎「ミッドサマー」で起きたこと。あるいはダニーの笑顔について。

note.com

☝もうちょっと深く読み込みたいなと思う人はこういうの読んでもいいのかもしれない。結構共感した

 

ミッドサマー感想〜地獄のチンポ・ババア祭り〜

note.com

☝文体は下品だけど言ってることはすげえわかる。

 

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以下アリアスター本人のインタビュー記事

【インタビュー】『ミッドサマー』アリ・アスター監督、「自分が危機に瀕している方がいいものが書ける」

www.cinemacafe.net

 

◎『ミッドサマー』アリ・アスター監督インタビュー「最高のストーリーテリングは、人を不快にさせるもの」←多分これが一番監督の言葉としてわかる

ginzamag.com

 

◎‘I Really Don’t Know What I’ve Done’ Director Ari Aster attempts to explain how he got from Hereditary to Midsommar in two and a half years.

https://www.vulture.com/2019/07/ari-aster-midsommar-interview.html